伝統的馬好き民族アメリカの歴代大統領と競馬

伝統的馬好き民族アメリカの歴代大統領と競馬

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ミスターフリスキーか、サマースコールか、それとも別の馬か。この号がキオスクに並ぶころには、もう今年のケンタッキー・ダービーの結果が入っている。 アメリカ最大のレースは、ブリーダーズCが創設された今でも、やはりケンタッキー・ダービーである。来賓室にずらりと名士が居並ぶことだろうが、今年も、大統領の姿だけはありそうにない。

アメリカの歴代大統領は、馬好き、競馬好きが多い。ブッシュ大統領もそうだという話はまだ聞いていないが、伝統をひいて「かくれ競馬ファン」である可能性は十分あると思う。 この春、世界最多8833勝を挙げて引退したシューメイカー騎手(今は調教師)を、愛嬢のアマングちゃんといっしょにホワイトハウスに招いて、にこやかに歓談したばかりである。女性騎手ナンバーワンのJ ・クローンもホワイトハウスのパーティーに招かれたことがある。

招いてばかりで、大統領自ら競馬場に行こうとしないのは、時間の制約もあろうし、警備が大変だということもあろう。 つい最近は、フォード元大統領がケンタッキーのターフウェイ競馬場(旧名ラトニア)を訪れたばかり。現職はダメでも、「元」や「前」ならいいらしい。レーガン前大統領も、在職中は8年の間一度も競馬場には行かなかったという。レーガンの馬好きは有名で、カリフォルニア州知事時代にはサラブレッドの生産を行う一方、競馬場にもしばしば出向いていたようだ。 昔の大統領はもっとオープンだった。昔といっても18世紀の話だからかなり昔である。

初代大統領のジョージ・ワシントンは、大統領の職務を行うかたわら、競馬場の裁決委員をしていたというから、これはもう筋ガネ入りのホースマン。第3代のトーマス・ジェファーソンは、「独立宣言」の名文を日夜考えながらも、サラブレッドの生産、競走馬の所有だけはやめなかった。 第7代のアンドルー・ジャクソンは、愛娘の夫、A ・ドネルソンの名義で自分の馬を走らせた。 大統領のラザフォード・ヘイズは、大統領就任の年にケンタッキーの競馬場でレースを楽しんだ。

現職大統領が競馬場へ行かなくなったのは、今世紀に入ってからの習慣らしい。ケネディ大統領はフロリダのハイアリア競馬場へ行っているが、それは大統領になる前のことだった。 今世紀の大統領では、セオドア・ルーズベルト、そのオイにあたるニューディール政策で有名なフランクリン・ルーズベルトの2人の大統領が筆頭か。

ルーズベルト家の牧場(クローヴ・クリーク・ファーム)は今もニューヨーク州のダッチェス・カウンティーにある。フランクリン・ルーズベルトの息子のフランクリン・ルーズベルト・ジュニアの経営で、100頭近いサラブレッドの繁殖牝馬を擁する大牧場だが、先年、ジュニアが70代で死亡し、次の世代に移っている。

他では、トルーマン、アイゼンハワーといったなじみの大統領も、大統領在任期間を除いてしばしば競馬場へ足を運んでいる。ニクソン大統領も、アイゼンハワー政権の副大統領時代の1957年、ボールドルーラーの勝ったプリークネスSを見にピムリコまで行き、勝利馬主に賞杯を手渡している。

アメリカの地方を旅すると分かるが、馬の品評会(ホースショウ)がアメリカ人の生活と深く結びついていて、アメリカ人の馬好きが通り一通のものでないことがよく分かる。 アメリカは建国以来、まず馬の国であり、現在でも全米に500万頭を越す馬がいる。大統領も人の子、アメリカ人である限り、〈馬嫌い〉などと口走ったら、人気にも響くのだ。
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