馬をトレーニングするバラエティ豊かな調教施設

バラエティに富んだ調教施設が出現

更新日:

陸上競技の選手が高地で、あるいはおもりをつけてトレーニングすることがあるのはよく知られている。 実際の試合よりも負荷をかけて鍛練しているわけだ。競走馬も、平坦な馬場より上り坂でトレーニングしたほうが負荷が大きいのは言うまでもない。実際、上り坂でトレーニングを行なうと、遅いスピードでも平坦馬場での追い切り並みのトレーニング効果があるとの報告もある。肢部に不安のある競走馬には朗報だ。

そこで滋賀県の栗東トレーニングセンターでは、1985年から坂路馬場の築造に着手した。築造に際しては、シャンティ(フランス)やニューマーケット(イギリス)のような坂のある調教場を目標にした。

まず、初年度は、馬場の向正面に幅員10m、直線280m、勾配3.5% (100m走って3.5m上る)のウッドチップ馬場を築造して、出入り口を逍遥馬道に取り付けた。そして87年には、坂路馬場の下方(右周りの三コーナー側)に、一周270mのウッドチップ追馬場を設け、ここで十分な準備運動を行いそのまま坂路トレーニングができるようになった。

同年には坂路の直線距離不足を解消するための延長工事も完了。延長部分は直線で320m、勾配3.5% (途中100mは4.5%)となった完成した坂路馬場は270mの追馬場を備えた直線600mの、追馬場終点まで走ると約1000mのコース。また、坂路の中間点には逍遥馬道につながる出入り口を設けたことで、組み合わせによってバラエティに富んだトレーニングができる調教馬場となった。そして92年には、直線部分がさらに200m延長された。

坂路馬場、追馬場、逍遥馬道とも厚さ25cmのウッドチップ材で上層路を築造。おかげで降雨後や冬期でも平素と変わりない調教ができる。ダートコースに比べ肢部への衝撃も小さいので、十分な運動量も見込めそうだ。厩舎地区から離れた場所に位置することで、かえって適度な準備運動にもなる。 特に三歳馬や休養明けの競走馬には格好の調教場になると思われる。恵まれた馬場を存分に使用した強い馬の出現が待たれてる。

動く歩道トレッドミルでトレーニング
トレッドミルという運動器具をご存じだろうか? 回転するベルトの上で運動をするためのもので、短い動く歩道を連想するとわかりやすい。

このトレッドミル、スポーツ科学の分野ではよく用いられており、スポーツクラブなどでもよく見かける。馬の世界でも十数年前から導入され、応用、普及が進んできた。はじめは、オーストラリアやアメリカなど限られた国で研究用として使われる程度だったが、現在では日本でも競走馬のトレーニングに用いられている。

馬をトレッドミルに馴致してうまく運動させるのは難しいと思う人が多いようだ。たしかに最初の第一歩は、勝手が違うために馬は少し戸惑う。しかし、乗ってしまいさえすれば、意外とスムーズにいき、たいていの馬は、数分で常歩で歩くことができるようになる。あとは、徐々にスピードを上げて、速歩・駈歩で走ることができるように訓練すればいい。ほとんどの馬は2、3日で上手に走ることができるようになる。

馬のトレッドミルにもいくつか種類があるが、 一般的には、スピードは最大12~13秒/ ハロンまで、傾斜は最大10~15%まで調節が可能となっている。JRA競走馬総合研究所では、最大速度秒速14.4m (約14秒/ ハロン)、最大傾斜10% (栗東トレーニングセンターの坂路の約3倍)までの実験が行われてる。

最大速度、最大傾斜を設定したときの心拍数は軽く200拍/分を超える。そして、傾斜を増すと、スピードが遅い割には負担度が大きいことがわかる。ドレッドミルで運動する場合は、ベルトが動く、人間が騎乗していないなど、走路での運動とは条件が若干異なる。

しかし、積雪や凍結のため走路が使えない、あるいは騎乗者がいない、坂路の効果を期待したいなどの場合には有効と思われる。その場合に応じた適切な使われ方がのぞましい。 もちろんトレッドミルは万能の器具ではない。 しかし目的をはっきりさせれば、馬の体力の維持、向上に役立つだろう。


この記事を見た人は、一緒にこんな記事も読んでいます!