サラブレッドがスピードを出せてスタミナもある理由

スピードが出せてスタミナもある骨格筋の筋線維バランス

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動物のからだは、きわめて精密で調和のとれた機械にたとえることができる。もちろん馬も例外ではない。この優秀な機械の動力となるのが筋肉(骨格筋)である。

骨格筋は骨から骨へ付着し、走る、跳ぶなどの複雑な運動を引き起こす。人間、馬、魚、鳥など、動物の種類によって骨格筋の構造は大きく異なる。また同じ馬でも品種によって、さらには個体ごとに、骨格筋組成が違うことがわかってきている。 サラブレッドが速く走れる秘密は、実はこの骨格筋にある。筋肉を構成している筋線維の組成に特色があるのだ。

馬の骨格筋は大きく分けて二種類の筋線維からなる。収縮速度が遅いが疲労しにくい遅筋線維(ST線維)と、収縮速度が速いが疲労しやすい速筋線維(FT線維)である。 人間の遅筋線維と速筋線維の割合を陸上競技選手でみると、短距離走選手は約30%と70%、長距離走選手は約70%と30%。この割合の逆転は、筋線維の組成と走能力の間に深い関係があることを示している。

馬の場合にも同じことが言える。サラブレッドの場合、遅筋線維13%に対し速筋線維87%。サラブレッド以上に速く走るクォーターホースでは6%対94%と、ますますスピード向きの筋線維組成になっている。ちなみに、ベルシュロンやヘビーハンターといった重種の筋線維は、人間の短距離選手並みの割合になっている。

昨今の筋線維の研究から、さらにおもしろいことがわかってきた。この遅筋線維と速筋線維の割合には遺伝的要素が強いというのだ。だが、遺伝によって大筋が決まっているからといつて、トレーニングは必要ないという結論にはならない。トレーニングによって筋線維を大きくし、筋カアップする。さらに毛細血管を発達させてスタミナをつくる。つまり、トレーニングをすることによって、疲労しやすい筋肉を疲労しにくい筋肉へ変えることができるのだ。

洗練された優美な走りと衝撃に耐えるガラスの肢
走るために生まれてくるサラブレッド。その体は競走する動物として洗練し尽くされていると言っても過言ではないだろう。 走るスピードはストライド(歩幅)とビッチ(歩数)で決まる。時速120kmで走るチータはしなやかな背骨を屈伸させ、体全体をばねのように使ってストライドを伸ばしていく。

一方、馬の背骨は柔軟性に乏しく、馬はもっぱら肢を、そのつけ根を支点にして振り子のように前後させて走行する。この走行法はエネルギー効率の面で経済性に富む。そのため、長距離を走りきる馬の持久力は、チータなど比べものにならないほどすぐれている。

馬の細くて長い肢は、ストライドを伸ばすと同時にビッチを速める効果ももっている。四肢は第三指(中指)の構成骨がそれぞれ長大化したもので、人間で言えば肘、もしくは膝より上の部分が、見かけ上、体幹部に入り込んでいる。これによって強大な屈筋ならびに伸筋が体幹部に集中し、見た目の割には重心が上部に位置するが、この構造が肢端の速い動きを生み出すことにつながっている。

ただしサラブレッドの優美な肢は、時速60kmのスピードを生み出すと同時に、500kg近い馬体が移動するときの衝撃に耐えなければならない。通常、損傷のない馬の骨は10t程度の負荷に耐えられる。 馬が全速力で疾走した場合、前肢には約1.2tの力が直接かかる。

しかし、球節(第一指関節)がこのように働く結果、管骨(第一指関節の上側の骨)にかかる負荷は、およそ5tとなるのだ。数字の上では問題がないように思えるが、骨の疲労、ステップの不整、走路表層の弾性低下など、いくつかの要因が重なると、即座に骨折の危険性が生じる。

このようなサラブレッドのガラスの肢はある面で、300年にわたる人為的な改良の歴史が必然的に生み出してしまった、宿命と言えるかもしれない。骨折につながる要因をひとつひとつつぶし、その危険性を少しでも減らそうとする努力が、競馬関係者のあいだで必死に続けられていることは周知のとおりである。

顎の大きさとスピードは関係する?喉はエネルギー源の精密な入ロ
馬の喉は、食道と気管への入口である。エネルギー源である食物と、それを燃やすのに必要な空気がともにからだに入ってくる。食道への入口は食物を飲み込むときにだけ開くが、気管への入口はいつも開いているので、呼吸する空気は自由に出入りできる。食物と空気がうまく交通整理される構造になっているのだ。

もう少し詳しく説明しよう。喉の上方に位置する食道口は、装状の軟部組織で構成されている。 一方、気道は左右ふたつの鼻の孔を先端とする鼻膝が咽喉頭部に入ってくると、食道の下方で一本の管となり気管に続く。食道に食物が送られるときには、気管の入口を主に構成する披裂軟骨、喉頭蓋が、気管をふさぐように二重に閉じ、舌の上を滑る食物は気管入口の下方から食道へ飲み込まれていく。また、呼吸時、強い運動によって大きな換気を必要とするときには披裂軟骨が左右に大きく開いて、空気の通りをよくするように働いている。

大事なエネルギー源がからだに入っていく入口であるという以上に、競走馬にとって喉は大きい意味をもつ場所だ。鼻から吸い込んだ空気は、長い気道を通って肺に至るので、気道の障害がなるべく少ないこと、すなわち喉の開閉がスムーズでうまく通気できるかどうかが、重要な要素になる。肺の機能を十分に発揮するためには、すなわち、速く長く走るためには、気道のいかなる部位においてもよけいな抵抗があってはいけない。

喉の精密な構造は、ひとつでもうまく機能しなくなると重大な問題を引き起こす。 喉に起きる病気には、披裂軟骨の片麻痺、喘鳴、いわゆる「のどなり」や軟口蓋の背方変位、喉頭蓋の軟頓などがある。いずれの病気でも、運動はもちろんのこと、日常生活にも支障をきたすことがある。

また、これらの病気は運動をしている状態でないと正確に診断できず、非常にやっかいなものだ。顎の大きい馬は強いという説があるが、からだの中からその構造を観察するとうなずける。

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