競馬学校で騎手になる生徒の1日と受験ガイド

競馬学校で騎手になる生徒の1日と受験ガイド

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騎手という仕事
カッコイイ。騎手を志した理由を語るときに多くの若者が最も口にする言葉だ。たしかに誰が見てもカッコイイ。競馬場で何十万人ものコールを受け、ウイニングランをしている姿なら、夢を見なくなってしまった大人だってカッコイイと思える。わずか数分の間に人気アーティストよりも熱い視線を受け、どんなスポーツ選手よりも人の想いを背負ってしまう職業。それが騎手。

騎手の仕事とは、競走馬に跨りレースで勝利を得ること。勝利数を多く得たものが称賛され、勝ち星が少なければ騎乗機会が無くなり、人々から忘れ去られる。非常にシンプルでわかりやすい優勝劣敗の世界。

しかし、外から見る騎手の仕事と、実際に働く仕事としての騎手は若干の食い違いがある。
嘉藤貴行騎手がインタビューの終わりに口にした言葉が印象的だった。騎手はレースに乗るだけが仕事ではない、というのだ。

それはどういうことか。騎手はレースで結果を出すことが最大の役割であることに間違いはない。しかし、騎手はレースで騎乗する以外に、ほぼ毎日調教にも乗る。週末レースで騎乗予定の馬の体調を知るには、跨って感触を確かめるのが一番良い方法だからだ。

また、騎乗依頼を受けに厩舎回りをしなければならない。電話1本で騎乗依頼が集まる騎手もいれば、厩舎に毎日のように足を運び、頭を下げ、オーナーを納得させて、初めて1鞍の騎乗にこぎつける騎手もいるのだ。たとえ人気騎手とて調教に来なくなっては騎乗依頼は徐々に減ってゆくだろう。

理解してもらいたいのはその点。基本は人付き合いの上に成り立っている仕事だということを。競馬サークル内では騎手のことを、乗り役と呼ぶことが多い。その言葉に騎手の仕事の意味が集約されている。乗る役割をしているから乗り役。馬主が馬を買い、調教師が目標を立て馬をつくる。厩務員が毎日のケアを施す。そして最後に騎手がレースで結果を出す。

もし騎手のミスが原因で負けてしまった場合、他のスポーツと比較できないほど、ひとつのミスが大きな責任につながる。馬を造ってきた人達への責任はもちろん、馬の行く末を決めてしまうのだ。つまり生命を握っているといっても過言ではない。そして油断すれば事故という形で、ひとつのミスが人間の生命を消してしまうことさえある。

表面上の華やかな部分の裏には、地道な毎日の積み重ねが必要であること、そして、騎手という仕事はきわめて重大な責任を負う職業だということを覚えておいて欲しい。



女性騎手の今後
女性騎手が勝つと、GIレースと見まごうほどに、ウイナーズサークルの周りにはものすごい人だかりができる。彼女の人気をJRAも利用しない手はないぞと、つい不遜なことを考える。地方の女性ジョッキーを招待して、中央版卑弥呼杯を開催したら、結構イケるんではないだろうかとか……。

現在、JRA所属の女性騎手は、1人だけ。引退したジョッキーを入れても、全部で8人だ。絶対数が少なすぎる。
男性の中にも、全く成績の上がらない騎手が大勢いるわけだから、これだけで「女性はダメ」と決めつけるのは少し酷だ。海外には、アマチュアレースがあったり、馬術と競馬の世界の垣根が低い。そこで活躍している女性騎手が、ある程度経験を積んだ上で、プロの騎手になるという可能性もあるようだ。

だが、日本の騎手養成システムで、筋力的に差のある男性と互角に戦うのは、かなり厳しいという見方もあるのは事実だ。現在の日本の状況では、「賞金のかかっているレースに、女性騎手をわざわざ乗せる関係者は少ない」というのが現実であろう。JRA競馬学校では毎年2次試験くらいまで何人か女性のジョッキー志望者が残るそうだが、残念ながら、現在、騎手課程の学生に女性は見当たらない。したがって、これから数年、女性の新人ジョッキーのデビューはゼロ。このままいくと、彼女たちが騎手の世界からフェイドアウトしてしまう可能性が大きい。

まず、とにかく競馬学校の難関を女性たちが大挙して突破すること。そして女性ジョッキーはダメという定評を覆すには、死に物狂いの努力をすることが必要だ。例えば、逃げ馬に乗せたら天下一品の中舘騎手、ハンデ戦の49キロに乗れる田面木騎手のような特色を、彼女たちが、1つでも身につけることができれば、乗り数が少なくても、存在感のあるジョッキーとして生き残ることもできるかもしれない。
近い将来、女性という理由だけではなく、その実力で、ウィナーズサークルにファンを集めることのできる騎手になる日が来ることを願わずにはいられない。


騎手はこうして育てられる
競馬学校の一日

まずは駆け足が基本
JRAの騎手になるためには、まず千葉県白井にある競馬学校に人学しなければならないことは競馬ファンならご存知だろう。しかし、授業風景、学校生活など、その細部はあまり知られていない。入学して間もない1年生を中心に、そんな競馬学校の日常を追った。

朝5時、生徒の1日は検量を行ってから始まる。パンツ一枚で体重を計ったあと、各自の体重管理表に今朝の体重を記入し、素早くジャージを着る。そして駆け足で表に出てゆく。「おはようございます!」教官にあいさつをしながら生徒は整列する。赤いジャージを着ているのが1年生。ピシッと背筋を伸ばして上級生がやってくるのを待つ。

若干遅れて2年生が整列する。「点呼!」「1、2、3、4……」点呼が終了するとそのままラジオ体操を始める。体操が終わると駆け足でそれぞれの担当馬房へ向かう。入学して3週間ばかりの1年生も各自2頭の馬を管理し、馬房の清掃から馬の健康管理までを行う。

「競馬学校には約170頭の馬がいます。約半数が現役を退いた競走馬で、もう半分が海外から輸入された乗馬専用の馬になりますね」日本中央競馬会競馬学校の総務係長の小川貴史さんはそう説明してくれた。「乗馬専用の馬を輸入するのはまったく馬を触ったことのない生徒のためにです。

やはりサラブレッド、特に競馬で使っていた馬は気性的に危ない場合がありますからね。それに競走馬を馴致すると時間もかかります。それでしたら乗馬専用馬を輸入したほうが効率的なんです」担当馬房で寝ワラを交換しながらボロ(馬糞)を取り除いていく。

黙々と作業を続けている大野拓弥君に話を聞くと「生活していてだいぶ面白くなってきました。暮らしに少し慣れてきたし、やっていけそうだという自信がついてきました」平成14年に入学した騎手課程21期生は全員乗馬経験者である。

しかし、乗馬経験などこだわる必要性はないと小川さんは言う「最初だけですね。馬に触ったことや、乗ったことが有利になるのは。1年もすれば、ほぼ同じレベルになります」1人で2頭担当しているので、朝からかなりの肉体労働。

田村太雅君と鮫島良太君が話す。「月曜日はボロが多くて大変です」「やっぱり騎乗訓練のほうが楽しいです」6時50分に騎手課程、厩務員課程の生徒が整列、点呼を取り朝の厩舎作業、飼い付けが終了。毎日出るボロは近所の農家の人へ差し上げているとのこと食事の時間、でも気になるのは7時になると朝食の時間。

食事は班ごとに分かれていて、全員集合するまで手をつけることはできない。全員が揃うと食べ始めるのだが、食事そっちのけでテレビに釘付け。やはり普通の16歳である。また食堂には名前入りのボードがあり、そこに朝食◎、昼食〇、夕食◎などの印が打たれてる。

「生徒の食事表です。自分でごはんの量を調節します。◎が普通で○はちょっと少なめ△はさらに少なめxは不要といった感じです」食堂の入り口に設置されているボードには体重の推移表が張られている。これで自分の体重を管理するのだ。1年生の体重を見ると平均41キロから43キロ。

一番体重の軽い38キロしかない生徒は食事を調節し、体を大きくしなければならない。朝食のあと、わずかな休憩時間をはさんで実技訓練となる。

体重の推移を表しているグラフ。成績表ではない、食事中もTVが気になる。「今日の運勢はどうなんだろう」8時、実技訓練1日2回の実技訓練で騎乗する馬は、自分で管理する馬とは別の馬だ。これは、生徒に実際の競馬と同じように、性格を知らない馬をどう扱うか学ばせる、という目的も含まれている。

前日に雨が降ったため、騎乗技術の足りない1年生は覆馬場で実技訓練。ヘルメット、プロテクター、ブーツを装備すると、朝の馬房清掃より顔つきが引き締まる。「競馬学校にも留年はあります。実技でついていけなくなった生徒は留年させ、技術的に危険とこちらで判断すれば辞めてもらいます。

1年生の10月くらいに競走姿勢の訓練、モンキースタイルの練習を始め、2年生ではモンキースタイル中心の訓練となります。厩舎実習がありますから、こちらも気が抜けません」小川さんは続ける「繰り返し言いますが、騎乗経験が必須ではない理由は、変な癖がついてしまうほうが実習の妨げになることがあるからです。そういった癖を直すのに時間がかかっては無意味ですから」

21期生は全員乗馬経験者とは言え、まだまだ騎乗の未熟者。ダクやギャロップでも、教官から騎来姿勢に対して厳しい声が飛ぶ。しかも授業が始まれば一度も馬を止めることはないのだ。時間にして1時間30分。かなりハードな内容といえる。教官は3人体制で様々な角度から生徒の騎乗姿勢をチェックする。

口頭で名前を呼び注意するが、それでも直らない生徒は馬を止めさせてじっくり説明して理解させる。やはり生命に関わる仕事だけに、基本が重要なのだ。
1頭目での実技が終了すると一度馬房に戻る。鞍を外し、裏ホリ(蹄の泥を落とす)をする。次の馬を馬装する時に必ず体温を測る。それを各馬ごとにボードに記入してゆく。

午後は学科と洗い場作業
馬を替えて屋内馬場へ。教官もついていく13時からの2時間は学科の授業だ。競馬学校も国語、社会、英語、美術、一般教養、倫理情操をカリキュラムとして組み込んでいる。とくに、競馬国際化の影響で英語は重要視している。
15時になると各自で管理している馬の手入れを始める。このときに初めてリラックスした表情を見せる。冗談を言ったり、休日に遊びに行ったことなどの話が中心だ。

寮で暮らすことに慣れましたか、と聞くと「やっぱりホームシックになります。でも自分で決めたことですから」船曳文士君はそう話す。他の生徒が着々と馬を洗っているなかで、ひとりだけじっと馬の脚に水を掛けている生徒がいる。

「乗り運動をすると球節が腫れるのです。だからこうやって冷やさないといけないんです」と、中村将之君は説明してくれた。今、何が一番欲しいか聞いてみると「甘い物がいいですね、アイスとか。でも一番欲しいものは革のブーツですね」ブーツはひとつひとつ手作りなので完成するまでに時間がかかる。もうすぐ届く初めてのブーツを待ちわびているそうだ。

自由時間は自習時間となる17時ごろに馬の手入れが終了すると夕食を含めた2時間半が自由時間となる。しかし、その時間をぼんやり過ごす生徒はいない。実技で遅れている生徒は筋肉トレーニングや、ランニングをしたりと自分の鍛錬の時間に回す。あくまでも自主的に行うことに、騎手としての人格養成の意味もあるのだ。

19時、夜の飼い付けが終わると競馬学校の授業は一応終了となる。就寝時間の21時までは自由時間だが前述のように、自主トレーニングに励むことが多い。1日に行う最低限の目安として、スクワット50回から200回、競走姿勢2分×2セット、手綱を詰める練習などがある。

最後に取材をして感じたことは、街の16歳とは顔つきも心構えも全く違うことだ。それは人生の覚悟を決めたからであろう。また規律ある生活の中では、少ない自由時間を有効に使おうとする自立心が芽生える。厳しい生活と思うが、夢に向かっているという自党があれば何とかなるものではないか

競馬学校
受験ガイド

騎手になりたい、という若者はいまでも非常に多い。だが、身長が高すぎるから、体重がオーバーしているから、という身体的理由で諦めていく人がほとんどだ。しかし、競馬場などで実際に騎手を見ると「意外と背が高い」と感じるのではないか。

「体重は43キロ以下」「視力は裸眼で左右0・8以上で強度の乱視でない者」「色別力、聴力、その他健康状態に業務を行うのに著しい障害のない者」「禁固以上の刑に処された者、および競馬法、日本中央競馬会法、自転車競技法、小型自動車競走法、モーターボート競走法の規定に違反して、罰金の刑に処された者のすべてに該当しない者」となっている。

身長の高さのことには触れていないのである。受験を前に身長が高いからといって諦めることはないだろう。逆に小さすぎてもいけないという。対照的に受験時に最も注意しなくてはいけないのが体重である。騎手課程生徒募集案内にも43キロ以下であることは絶対条件、ということが再三再四登場する。

試験当日にまず行うのが身体測定である。その場で43キロを超えてしまえば試験は終了する。JRA競馬学校の小川さんはこんな警告をしている。
「最近、多くなってきたのが入学するまでに過酷な減量してくる生徒です。どうしても夢を叶えたい気持ちはわかるのですが、競馬学校での暮らしについていけなくなるでしょう。無念かもしれませんが、あきらめることを考えておいたほうがよいでしょう」

応募手続きは指定の受験願書に必須事項を記入の上、書類を添えて競馬学校に送付。履歴書、健康診断書、最終学校の成績証明書など、一般の高校を受験するのとなんら変わりはないが、全身写真という項目があるのだ。全身の体形を見るために必要で、3カ月以内に撮影された水着着用のもの。願書提出時から試験は始まるのだ。受験倍率の日安として、平成14年度はおおむね30倍だった。

なお受験料は必要ない。試験は1次、2次の2度に渡って行われるが、すべての試験で体重測定が行われる。つまり試験のためだけに行う減量での合格は、事実上の不可能を意味する。たとえ1次試験を通ったとしても、以降の試験でふるいにかけられるだろう。

第1次試験
第1次試験は全国4カ所で行われる。北から札幌競馬場、千葉県白井市の競馬学校、栗東トレセン、小倉競馬場でそれぞれ試験が行われる。試験会場が希望に添えないこともあるので、必ず受験票を確認して欲しい。試験内容を説明すると、受験資格審査の体重測定。試験当日に43キロを超えたものは受験できない。その時点で終了である。

続いて筆記試験が国語と社会となっている。それが終わると簡単なスピーチ。これはビデオ撮影が行われるので、もし自宅にビデオカメラがあるのなら、練習して多少でも慣れたほうがいいだろう。このスピーチは今後、数人数の合同面接になる予定もあるらしい。

続いては身体測定、さらに運動機能検査が行なわれる。平衡性(片足つま先立ち)、敏捷性(サイドステップ)、筋力(懸垂)などの検査だ。以上が第1次試験である。

第2次試験
第2次試験は1次試験の1カ月後に、1次合格者のみ、競馬学校での合宿形式にて行なわれる。現在は2泊3日だが、今後は合宿日数が3泊4日になる可能性があるという。より騎乗に向いている人材発掘のため、受験生をできるだけ入学後と同じ環境に置いて、人物審査を行うためである。

ここでも、受験資格審査の体重測定が行なわれる。もちろん43キロをオーバーしたらその時点で不合格だ。続いて健康診断、運動機能検査が行なわれる。

そして騎乗適性検査が行なわれる。実際に馬に触ったり、跨ったりするのがこの検査であるしかし、騎乗経験は問わないことになっている。その理由は、あくまでも馬との相性を見るためであり、上手い下手を見分けるための試験ではないということを強調している。騎乗経験がないからといって臆することはないが、どんなスポーツでも早めに始めたほうが上手くなる可能性は高い。騎乗適性検査が終わると性格適性検査が行なわれる。

騎手というのは勝負根性という精神力が最も必要である。また、馬に乗る以上に、人付き合いの上手さが求められる職業である。そのため、協調性のない子供は必ず壁に突き当たってしまう。それを検査するのである。

続いては本人への面接だ。ここでも再びビデオ撮影が行なわれる。
本人への面接が終わると続いては保護者面接である。通常の高校受験と違う点がここだろう。昨年行われた試験での面接内容は、両親の競馬に対する理解度、子供の性格面、家庭での食生活の3点を聞いたそうだ。

なかでも重要視するのが競馬サークルに対する理解度である。やはり、競馬サークルは通常の社会と比べ特殊な業界だ。したがって両親が競馬と騎手という職業に深い理解を持っているかどうかも重要な判断材料となる。

また、面接時に両親の体形を見て、子供が将来的にどれだけ成長するか、なども判断する。
以上が第2次試験の内容である。体験入学体験入学は、入学内定者のみに3泊4日の競馬学校生活を体験してもらう。第2次試験の内容と違うところは、実作業を行なうところである。くどいようだがここでも体重測定は実施され、43キロをオーバーすれば入学資格は取り消される。

体験入学の内容はオリエンテーション、寮生活体験や、実技見学、トレーニング、簡単な厩舎作業を行なったりするのだ。しかし、この体験入学には意外な落とし穴が存在する。せつかく2次試験を通つたにも関わらず、学校生活を体験させると急にホームシックにかかってしまつたり、食生活をコントロールできずに体調を壊してしまう生徒が出る。毎年、何名かの生徒はここで涙を飲むのである。最終的には15名以内の合格者となる。

しかし、入学後も1週間で退学してしまう生徒もいる。やはりホームシックが一番の原因で、入学前に考える親離れのイメージより、ずっと厳しいものが待っていると思ったほうがいいだろう。また、無理な減量をしていて、本格的な訓練に体力がついていかない生徒が出るのもこの時期だ。



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