競走馬のレース後の疲労や怪我の予防のためにすること

今日の疲れを明日に残さないクーリングダウンの効果

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トレーニングと疲労とは切っても切れない関係にある。もし疲労をまったく感知しなければ、からだのあらゆる器官は限界まで働き続ける。そして予告なしに心臓は止まり、筋や腱は引き裂かれ、骨は砕けるという事態に陥るだろう。四肢の局部的熱感、筋肉の痛み、動悸などの疲労症状は、からだが発する警告信号なのだ。

飛行機事故などの際話題になる金属疲労は、ひとたび発生すると二度と復元しない。しかし生き物は自らの力で疲労を回復することができる。そればかりか、疲労と回復を繰り返すことによってからだの各器官を発達させることもできるのだ。逆に言うと、疲れをまったく感じさせない程度の運動では、体力を強化することはできない。したがって、馬の運動にも疲労はつきもの。疲労といかに上手につきあうかがトレーニングのコツとなる。

疲労を蓄積したまま運動を続けていると、やがてオーバーワークの状態に陥る。運動によって生じた疲労はその日のうちに解消することが理想だ。近年、スポーツ医学の分野では、運動と同様に休養のとり方がきわめて重要であると考えられるようになってきた。

競走馬はレースや追い切りなどの激しい運動をした後すぐ馬房に入れるよりも、常歩をさせてクーリングダウンをしたほうが疲労の回復が速いことがわかっている。日本国内では、調教後のクーリングダウンに費す時間は15~20分が一般的である。その一方で、ジャパンカップに出走した外国馬の場合は、平均50分を費していた。

馬は1分間に約100mの速さで歩く。したがって、外国馬はクーリングダウンのために日本の馬より毎日3km、1年で1000km以上も多く歩いていることになる。 クーリングダウンの効果は、リズミカルな筋肉の収縮―弛緩の繰り返しによってもたらされる。この筋肉の収縮(筋ポンプ)の働きで、疲労物質は血液によって運ばれ、すみやかに処理されるためだ。

もうひとつ、クーリングダウンには、引き手を通じた人間と馬のふれあいによって過度の興奮や緊張を和らげるという心理的効果もあるようだ。 激しい運動後の疲労回復にはその他、マッサージや睡眠などの消極的な方法も効果がある。

砂が運ぶ創傷性角膜炎を防ぐためにレースのあとには目を洗う
私たちがプールで泳いだあと目を洗うように、競走馬は激しいレースのあと、泥だらけの顔のまま診療所に行って目を洗ってもらう。日常的に行なわれているこの目洗いのあと、さらに目薬を入れる。

大自然の中では砂ぼこりを上げて駆け回るのだから、馬は生まれつき丈夫な角膜を授かっている。角膜は目のいちばん外側にあって、目を守る鎧の役目をしている。人間とは比べものにならないくらい強くできていても、競馬という苛酷な条件のもとでは頑丈な鎧さえも傷つくことがしばしばある。

競馬場のダートの砂を顕微鏡で観察すると、砂粒にたくさんの鋭くとがった角があるのがわかる。レースで巻き上げられた砂は、想像以上に激しく馬の目を傷つける凶器となりうる。 角膜についた傷は、それでも数日の休養で完全に治すことは可能だ。やっかいなのは、その傷から細菌が入った場合。傷ついた目に砂にくっついて運ばれてきた細菌が感染する。これが創傷性角膜炎という病気である。

この病気にかかると角膜が白く濁り、馬は疼痛を訴え、まぶしそうに眼瞼を閉じ涙を流す。このような症状が出たら大急ぎで獣医師に診てもらわないと手おくれになる。緑膿菌のような悪質な細菌が感染した場合、治るまでに1ヵ月以上かかり、悪くすると失明ということにもなりかねない。

目洗いとは、目の中の砂を洗い流すのと同時に、この創傷性角膜炎の原因となる細菌を取り除く作業でもある。洗ったあとの目に入れる軟膏状の目薬は、細菌を殺す抗生物質なのだ。なにげない日常の目洗いにも、実は重要な意味がある。
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