狭き門の地方競馬の調教師と門戸が開かれている厩務員になる方法
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厩舎経験必須の狭き門地方競馬調教師
身長や体重などの基準を満たさなければならない騎手の場合は、運動能力や適性以前に身体的な理由で断念せざるをえない人が圧倒的に多い。しかし同じ競走馬に関わる職業でも、調教師や厩務員に求められる資質は騎手と異なり、少なくとも「体が大きい」という理由で門前払いされることはない。
ただし調教師に関しては、今のところ地方競馬全国協会から免許を交付されている調教師全員が元騎手か元厩務員であり、たとえば「銀行員から調教師ヘダイレクトで転身」というケースは考えられない。
制度上では現在の職種を問わず調教師試験を受けることが可能だが、厩舎を運営するノウハウなど「調教師の仕事」の実像は、競馬サークルの内部で経験を積んだ者でなければ理解できない部分が大きいからだ。
したがって一般的なルートとしては、騎手や厩務員として相応の経験を積んだあとに調教師試験を受験する。独学で勉強して試験にパスする人も少なくないが、受験を希望する人の中で人格や能力が認められた人は、主催者から推薦されて地方競馬教養センターで1カ月間の講習を受ける。
この講習は合格への特急券で、受講すると合格率は格段にアップするが、実際には推薦を受けるまでが大変だ。実際問題として、厩舎の空きがなければ、試験に合格しても厩舎を開業できないため、主催者サイドが推薦する人数をコントロールしているからだ。
調教師とは総合接客サービス業
調教師試験の応募資格は、年齢が28歳以上で、視力が両眼で矯正0.3以上。そのほかにも欠格事項はあるが、普通に社会生活を送っている人であれば抵触する部分はないだろう。触法行為以外では「地方競馬に関係する馬主」の受験が禁止されている。
試験は2段階の選考で、1次試験は小論文を含む筆記試験。
おもな出題範囲としては競馬関係法規、そして調教助手や厩務員を雇用して厩舎を運営する経営者としての知識も必要なので、労働関係法規や一般常識も出題される。
そして小論文は調教師の業務に関する識見が求められる内容のもので、小論文を除いた筆記試験の成績が100点満点で60点以上、かつ小論文の内容が適当と認められた者だけが2次試験に進む。
2次試験は口頭試験と実技試験、そして面接試験が行われる。口頭試験は形を変えた筆記試験のようなもので、鞍や頭絡などの装着方法や、そのほか調教のために必要な基本技術が出題される。実技試験は課題に従った基本騎乗だが、これは騎手免許試験と違って一般馬術のレベルなので、厩務員としての経験があればマスターできる。
ここまで順調に来れば合格は近いが、調教師試験では最終関門の面接試験が重要なポイントになる。
騎手試験でも2次試験で面接が行われるが、騎手の場合は腕達者で結果が残せると判断されれば、よほどの人格破綻者は別として多少の破天荒ぶりなら容認される。
しかし、調教師は良質な競走馬を育て上げる技術だけでなく、1次の筆記試験で労働関係法規などが出題されるように、スタッフを雇用して厩舎を運営していく「経営者」としての顔も間われる。よく「名騎手は名調教師になれない」などと言われるが、これは「騎手と調教師では、要求されるものがまったく異なる」という意味なのだ。
騎手は個人プレイヤーで、レースで結果を出せば良い。上方の調教師はレースに向けて管理馬を仕上げることが役割だが、それは仕事の一部分でしかなく、馬の調教そのものは優秀な調教助手や厩務員をスタッフとして雇用すれば補える。
それよりも調教師の重要な仕事は、主催者から貸与されている馬房に空きが出ないように、馬主へ預託依頼の営業をすることだ。新規の馬主のところへは手土産を持って足を運ぶし、既に預託馬がいる馬主とはともに食事をするなどして、愛馬の近況を報告する。馬主の中には社会的ステイタスが高い人も少なくないので、基本的なテーブルマナーなどの素養は当然身に付けておかねばならない。
また管理馬が重賞レースの有力馬として出走することになれば、広報担当として新聞や雑誌、テレビからの取材の窓口にもならなければならない。
調教師の仕事はけっして競走馬の管理、育成がメインの「技術職」ではなく、ある時は営業マン、またある時はスポークスマンであったりと、その内容は「総合接客サービス業」にはかならず実際には厩舎での経験がなければ調教師試験に合格するのは難しいが、もし異業種で活躍する一流のビジネスマンが調教師に転職したら、あるいは大きな成功を収めるかもしれない。厩務員に必要なものは馬への愛情競走馬に関する職業のなかで、もっとも広く門戸が開かれているのが、地方競馬の厩務員だろう。
調教師や騎手は免許制で、試験に合格して地方競馬全国協会から免許が交付されることが条件だが、厩務員は調教師との間に雇用契約が成立し、主催者から「厩務員認定」が下りれば、すぐに厩務員として働くことができる。
中央競馬の場合は競馬学校の厩務員課程に入り、6カ月間のカリキュラムを終了した時点で所属する厩舎が決まるが、地方競馬の場合は厩務員を養成する学校はない。 一般企業に就職する場合と同様に、雇用するか否かは経営者である調教師に決定権がある。試験の方法も千差万別(多くは書類選考と面接試験だけ)で、馬に乗った経験があれば優遇されるが、まったくの未経験者でも問題ない。
求人の方法もさまざまで、競馬場の近くの学校に新卒者の募集があったり、乗馬雑誌に募集広告が載ったり、地域のハローワークに求人票が出ることもある。また各競馬場の調教師会へ問い合わせて、求人募集の情報を得る方法もある。
一般的に賞金水準が高い競馬場は希望者が多く、なかなか空きが出ない。「どこでも場所は構わないから厩務員になりたい」という人は、それほど規模の大きくない競馬場が狙い目だろう。
なお、調教師との間に雇用契約が成立しても、主催者から認定が下りなければ厩務員になれないが、こちらも普通に社会生活を送っている人ならば問題はないだろう。
厩務員の仕事は調教師から割り振られた担当馬の世話をすることだが、中央競馬の場合は1人が最高でも2頭しか担当しない。
しかし地方競馬では預託料が割安のため、1人当たりの担当馬の数が多い。大井競馬場では1人で3頭が原則だが、日本でもっとも規模の小さい益田競馬場では、1人が5頭以上を世話しなければならない。担当馬の数と労働時間の長さは必ずしも比例せず、担当馬の多い地区の厩務員は1頭の馬にかける時間は短くなるが、それでも馬体の手入れや飼い葉の準備など、やはり担当馬の数が多ければ仕事は増える。
規模の小さな競馬場は賞金の水準も低いので、馬主が厩舎に支払う預託料も安い。大井競馬場と益田競馬場ではじつに4倍もの格差がある。預託料が安ければ、その中に含まれる厩務員の人件費も安いので、必然的に担当馬の数は増える。
一方で厩務員は調教師から支払われる固定給以外に、レース賞金の5パーセントが進上金として支給される。賞金の安い地区の厩務員が少しでも自分の収入を増やそうと思えば、担当する頭数を増やすしか方法はない。
こういう背景が「賞金水準の低い競馬場では厩務員が不足がち」という状況を生み出しているが、担当馬が多いと「さまざまな個性の馬と触れ合う機会が多くなる」というメリットもある。
競走馬と深く、長くつき合っていこうと思っている人にとっては、経験は将来に向けての大きな財産となる。とくに厩務員としての経験を積んだ後に、調教師試験にトライしようと考えている人は、さまざまなタイプの馬を担当できるメリットは大きい。競走馬に関わる仕事で、もっとも人数の多いのが厩務員である。厩務員になるには身体的な制約もないし、学歴も必要ない。「担当する馬に精一杯の愛情を注げること」という条件を満たす人ならば、厩務員になることは難しくないのだ。
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