地方競馬の騎手になるための裏技的な方法もあった

地方競馬の騎手になるための裏技的な方法もあった

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地方競馬の騎手になるには?
以前は中央競馬の騎手に比べてマイナーなイメージが強かった地方競馬の騎手だが、安藤勝己騎手や石崎隆之騎手などが中央競馬でも大活躍するようになって、現在ではその存在がファンに広く認知されるようになった。とはいえ弱肉強食、優勝劣敗は、勝負の世界の大原則で、地方競馬を取り巻く状況は一段と厳しくなっており、腕に覚えのない騎手は容赦なく洵汰されている。

こうした状況の中で、地方競馬の騎手でありながら大きな舞台で活躍できるようになる可能性は、ほかのスポーツ選手とくらべて低いように思える。それでも厳し過ぎる現実を直視しつつ、サクセスストーリーを夢見る若者は少なくなく、年間に30人前後の新人騎手が全国各地の地方競馬場でデビューしている。

4月と10月に行われる騎手候補生試験さて地方競馬の騎手になるには、栃木県那須連山の麓にある地方競馬教養センターで、2年間の騎手課程を修了した後に免許を得るのが一般的な方法だ。騎手候補生の募集は、4月入所と10月入所の年2同行なわれるので、入所試験も年に2回実施される。応募の受付期間は、入所時期の半年から5カ月前まで。

応募書類は最寄りの地方競馬場でも受け取れるし、160円分の切手を同封して地方競馬教養センターヘ請求すれば、郵送でも取り寄せられる。入所の応募資格は年齢が5歳以上 20歳未満で、学歴は中学卒業以上または卒業見込みの者。乗馬経験の有無は問われないが、プロのジョッキーを目指す以上、健康であることは当然だが、身長、体重、視力に細かい制約がある。

原則として身長は16歳までの者が163センチメートル以下、20歳までの者が165センチ以下。20歳までが44キロ以下となっている。そして視力は両目とも裸眼で0.6以上でなければ応募の資格がない。実際のところ身長に関しては若干の融通が効くようだが、体重と視力は基準を満たしている事が絶対条件になっている。

試験は2段階の選抜で、1次試験が入所の4カ月前、2次試験が3カ月前に行われる。1次試験では身体と学力が応募資格の条件をクリアーしているか否かが確認され、ここで体重オーバーや視力の不足が発覚すれば即座にアウトになる。

学力試験の出題範囲は中学校で学ぶ内容なので、特別な試験勉強は必要ないだろう。そして2次試験は平衡性、敏捷性、筋力などを測定する運動能力検企と面接試験が行なわれ、合格者は入所の1ヵ月前までに発表される。募集人員は4月、10月とも15名前後だが、新卒者の受験が無い10月入所の方が受験者は少ない。

希望どおりになりづらい所属地区、厩舎試験に合格して教養センターに入ると、寄宿舎での共同生活がスタートする。早朝からの起床に始まって、訓練馬の手入れや厩舎作業、技術訓練、学科そして体重管理など、寺の修行僧のような厳しいカリキュラムが組まれている。しかし騎手としてデビューしてからは、これらの全てを自己の責任で行わなければならず、教養センターで管理されている「厳しさ」は、まだまだ序の口なのかもしれない。

そして教養センターで過ごす2年間の生活も折り返し地点を過ぎると、競馬場での実習訓練が行なわれる。実習へ行く競馬場、所属する厩舎は、デビュー後に自分が籍を置く予定の場所で、親類縁者に関係者がいたり、入所前に厩舎で見習などをしていた候補生の大半は、目指す行き先が早い段階から決定している。

しかしまったく競馬との接点がないまま入所した候補生は、本人の希望を考慮しつつ親や教官と相談の上で、この段階で所属する競馬場と厩舎を決める。ただし規模の大きい競馬場へ行きたくても、身元を引き受ける調教師が誰も手を挙げなければ、残念ながらほかの競馬場を探さなければならない。

競馬場で実習した後は、ふたたび教養センターに戻り、最後の総合訓練を受けて2年間のカリキュラムを修了すれば、騎手免許試験を受けられる。ここまで騎手を養成するためのカリキュラムを無事に消化してきていれば、騎手免許試験に合格できないことはない。身体の大きさや騎乗技術が合格基準に達しないレベルであれば、修了以前の段階ですでに脱落しているからだ。馬に乗らたことはおろか、触ったことさえない候補生も、2年間の騎手課程を終えることができれば、一人前の騎手になれる。

騎手免許を即発行超難関「一発受験」以上が地方競馬の騎手になる一般的な方法だが、じつは教養センターの騎手課程を修了しなくても、騎手になれる方法はある。地方競馬に詳しいファンならば、かつて教養センターに「短期騎手養成課程」というカリキュラムがあったことをご存知だろう。これは年齢などの条件で通常の騎手課程に応募できなかった人や、厩務員の経験があって騎乗技術に自信がある人向けのカリキュラムだった。

訓練期間は6カ月で、短い期間で騎手として必要なスキルを習得するのだから、入所前の騎乗経験は必須だった。応募者の大半は日常的に競走馬の調教に騎乗していた人だったが、なかには大学在学中に馬術部で活躍し、その経験で短期課程に合格した人もいた。

もちろん騎手免許を得るには、短期過程を修了した後に騎手免許試験に合格しなければならなかつた。そして短期課程は廃止されたものの、2年間のカリキュラムを修了しなかった者が受けられる騎手免許試験は、現在でも行なわれている。

いわゆる「一発受験」と呼ばれるもので、自動車免許の取得でも公安委員会が認可する教習所を卒業する方法が一般的だが、いきなり試験場で実技試験を受ける方法があるのと同様に、年齢や身体の基準を満たしていれば、教養センターの課程を修了しなくても騎手免許試験が受けられる。

受験資格は年齢が16歳以上で体重は50キログラム未満、視力は両目が裸眼で0.6以上と、体重については教養センターの入所試験に比べて基準が緩い。しかしこの試験で合格すれば、すぐに騎手免許が交付されて百戦錬磨の先輩騎手たちと手合わせする訳だから、試験のレベルは相当に高い。

まず1次試験は学力と技術が試されるが、学力は競馬法規と一般常識、そして中学卒業程度の国語、数学、社会から教養問題が出題される。技術では馬の飼養や騎乗に必要な技術を有しているか否かが判断され、100点満点で60点以上を獲得すれば2次試験へ進める。

2次試験は技術の実技試験で、基本馬術と競走騎乗の2種目が行われる。これにパスすれば念願の騎手デビューだが、基本馬術は乗馬クラブなどで腕を磨くとしても、競走騎乗は実戦訓練以外に習得する術がない。したがってまったく競馬と関係ない世界から騎手試験を受験し、それで合格する可能性は皆無だろう。

また競馬場で厩務員として働きつつ、手が空いている時間に実戦訓練の経験を積もうと思っても、教養センターにいる訓練馬と違って、競馬場にいるのは現役の競走馬だから、自分の練習台にすることは難しい。ある程度のレベルまで上達して調教に騎乗するようになっても、2次試験の課題のひとつであるゲートからの発走だけは、なかなか機会が与えられない。ちなみに昨年は「一発受験」を10人が受験し、合格者はわずか1名のみ(船橋競馬場の石崎駿騎手)だった。

試験は北海道・東北、関東、関西、九州の各地区の競馬場で、それぞれ年に1回ずつ(計4回)行なわれるが、実施時期などの詳しい情報は、地方競馬全国協会の審査部免許課で案内してくれる。

最後になるが騎手という職業は、免許を取得するまでよりもデビューしてからの方が何10倍も厳しい。早朝からの調教のために自分の意志で暗いうちに起床し、レースで騎乗するために食事を制限し、サウナで汗を搾り取って減量する。大きな舞台で活躍する騎手がいる一方で、人知れずムチを置く騎手の数はけっして少なくない。

レースで勝てば苦労も報われるが、1着の数が2着以下の数よりも多い騎手など誰ひとりとしていない。負けることに嫌気を覚えず、なおも自分を律していける覚悟があるのかどうか。これから騎手を目指そうという人は、自身の意志を再確認すべきだろう。



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