競走馬の心臓はスポーツ心臓で負担がかかり不整脈も多い

プレッシャーに耐える競走馬の心臓は不整脈が多い

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スポーツ活動中の人間が突然死(急死)することがある。多くの場合、心臓に起因する心臓性突然死と呼ばれ、不整脈の致死的なものによると考えられている。馬にも、疾走中あるいはその直後に人馬転倒し、聴診器を持ってかけつけたときにはすでに心音が聞こえなかったという例がまれに見られる。これらの多くは、不整脈による突然死だろうと推察される。

レースに出走している競走馬は、たとえてみれば高校生以上のスポーツ選手のようなもので、健康には何の問題もないはずだ。煙草は吸わない、酒は飲まない、徹夜はしない、毎日規則正しく食事や運動をしている。にもかかわらず、詳しく心電図検査をしてみると多くの競走馬に不整脈があることがわかっている。

馬房でリラックスしている競走馬の心電図には、いくつかの特徴がある。あまりトレーニングされてない馬の心拍数は1分当たり40拍前後だが、よくトレーニングされた馬は30拍。一流の競走馬で25拍という例もある。このような心拍数減少を洞性徐脈という。また、心臓の拍動を時々休むものもあり、これを房室ブロック(結滞脈)という。洞性徐脈や房室プロックも不整脈の一種だが、これらは迷走神経の緊張によるもので、多くの場合はそのまま放置してかまわない。馬は人間以上に自律神経の反応に敏感なので、このような不整脈になることが多い。

その他、洞性不整脈、上室性および心室性期外収縮がたびたび見られ、まれには心房細動、発作性頻拍などもあり、人間にあるほとんどの不整脈が馬でも観察されている。こうした不整脈を示す馬は、テレメーターやテープ心電計で運動中の心電図検査をして、レース出走や調教の可否を判定する。心房細動は、年間6000頭の母集団中30~40頭の割合でレース中に発生する。

急にスピードが鈍り、ずるずるとレースから後退して大差でゴールする結果となるため、競走馬にとってはやっかいな不整脈だ。 日々調教している馬でも、運動中の心電図検査で数頭に一頭はなんらかの不整脈を示す。これは、レースや日々の調教が馬の心臓に大きな負担となっていることを物語っているのかもしれない。

体養すると萎縮し機能が低下するトレーニングでつちかうスポーツ心臓
宇宙飛行を終えた乗組員のからだを調べると、心臓のポンプ機能の低下、筋肉の萎縮、骨からのカルシウムの喪失、ホルモンの異常などが観察される。無重力状態の宇宙では、心臓や筋肉、骨などに加わる機械的刺激(重力による負荷)がないため、これらの現象が起こると考えられている。地上でも、例えば運動選手などがケガで長期間ベッドに寝ていた後、あるいは骨折してギプスをとった後、腕などが異常に細くなったり筋肉が萎縮していたりする。

競走馬も、骨折や腱炎の発症などで、トレーニングを一時中断して馬房内での長期休養を余儀なくされることがある。そして、トレーニングによる負荷がなくなったからだには当然、その影響が現われる。

トレーニングによって心臓は、強度の運動に適応できるように、壁の厚さや容積が大きくなり、送り出す血液の量を増加させることができるようになる。こうして大きくなった心臓が、いわゆるスポーツ心臓だ。トレーニングされていない馬の心臓の重さは約4100g、体重の0.94%なのに対し、十分にトレーニングされた馬では約4800g、体重の1.1%。しかし、トレーニング後、六ヵ月以上休養していた馬の心臓は約4250g、体重の約0.99%と、小さくなる。

また、安静時の心拍数(心臓が一分間に打つ回数)が、スポーツ心臓のひとつの目安になる。 一般の馬では安静時心拍数が30~35回だが、十分にトレーニングされた一流のサラブレッドになると、25回と少ない。しかし、せっかく獲得したスポーツ心臓も、数ヵ月もの長い間馬房内で休養していると、再び萎縮し、ポンプ機能も低下し、スタミナの喪失を招くことになる。

人間が早い社会復帰のためにリハビリテーションをするように、馬も心臓や肺の機能を低下させない工夫をしなければならない。 レース中の馬の最大心拍数は230回前後。水泳運動では心拍数210回前後と、四肢に負担をかけずに陸上トレーニングとほぼ同程度に心臓を鍛えることができ、さらに肺機能の向上にも利点がある。 水泳調教がクローズアップされるわけはここにある。
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