ハンデキャップ役がレースを左右するので調教チェックも真剣

ハンデキャップ役がレースを左右するので調教チェックも真剣

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正式には「ハンデキャップ役」
我々競馬ファンにとって、通常の条件戦よりもさらに予想のファクターが増え、難しくも、さらなる予想の楽しさと手応えを感じるのがハンデ戦だ。そのハンデを付ける人を、「ハンデキャッパー」と呼ぶのだと思い込んでいた。しかし、名刺を見て、やっと正式な名称が解った。

「美浦トレーニング・センター公正室 ハンデキャップ役」というのがそれだ。
JRAの職員として、平日業務と開催日業務があることは誘導馬の項で前述したが、ハンデキャップ役の平日業務とはいったいなんだろう。ある木曜日、美浦トレセンに高木さんを訪ねた。午前6時30分、まだ暗い中を、馬たちが厩舎周りで引き運動を始める。6時40分には日が昇り始め、馬たちがスタンド前に集まり始めた。

6時50分になると、南スタンドの4階に現れた。コースに向かって一番右側の端が定位置だ。「3年前(栗東勤務の頃)までは、テイエムオペラオーの調教でスタートしたものですが、今は藤沢厩舎でスタートですね」
しかし、競馬場でこそ、馬名の入ったゼッケンで、どの馬が誰なのかひと日で判るようになっているが、トレセンでは馬たちが着けているゼッケンは数字だけ。年齢ごとの色分けと、ゼッケンナンバーだけが識別の頼りとなる。広げた資料の中にも、分厚い調教ゼッケン一覧表がある。

他には、特別登録馬表(日曜日の夕方に配られる、次週の登録馬一覧表)、競馬ブックなどの週刊誌、双眼鏡、筆記用具が手元に用意される。
「完璧に強いと思うんだよな」カンペキの調教を見ながら、オヤジギャグをつぶやくが、馬を見る眼差しは真剣そのものだ。取材当日は、全部で3名のハンデキャップ役がスタンドで調教をチェック。馬の気配やタイムを見ながら、過去のレースを思い出すのだという。

「絵が浮かべばしめたもの、なんです。オープン、準オープン馬でしたら見れば判りますが、500万下とかだと」たしかに、条件クラスの馬たちのレースまで、限なく記憶するというのは至難の技だ。でも、彼らはお互いに過去のレースについて雑談しながら、その展開までも思い起こしていく。こうして、8時のハローがけが始まるまで調教をチェックし、その後トレセン敷地内の社宅にかえって朝食。9時には、事務所2階の公正室に出勤だ。さっそく、1週間の業務の流れを教えてもらった。 


ハンデキャップ役は、3人で1組。実は、彼らの仕事始めは日曜日の夕方なのだという。JRAの業務管理システムから出力され、それを見て、翌週のハンデ戦への出走メンバーをチェックする。そして、月曜の昼頃までに3人全員が各自でハンデを作るのだが、もちろん、その指標となるデータがある。まずは、「ハンデカード」。1頭ごとの、デビュー以来のハンデの履歴がすべて書かれている。これは、走ったレースに限らず、ハンデを付けたものの、除外になったり回避した場合のものもしっかり記録される。

次に、特別登録馬対戦成績表。これは、登録馬のうち、2頭以上が同じレースで対戦した場合の、過去半年分すべてのレースデータが集められたもの。

最後に、ハンデノート。登録馬の、過去6戦のデータ一覧だ。
これらをもとに出された3人分のハンデを付け合わせ、意見を出し合いながらハンデを決定していくのだという。そして、午後3時の発表までに、決定したハンデをJARISに入力するのだ。以前は水曜日発表だったのだが、現在は、ハンデを見てから陣営が回避か出走かを決められるように、月曜発表となったのだという。

付け合わせされる各自のハンデは、さすがはプロフェッショナルで、ある程度まで一致するそうだ。ただし、「テン付け」という、500万下を勝ち上がって、最初にハンデを付ける場合など、長い時は1頭に多くの時間がかかることも。

「1回ハンデが付くと、多かれ少なかれ最初の数字に束縛されますから、慎重になります」つまり、ハンデキャップ役の皆さんは、月曜日もお仕事があるということなのだ。その代わり、火曜日が全体日となる。水曜日は当番制で午前中は調教のチェック、午後は前週の資料整理と、当週のための準備が行われる。本曜日も、午前は調教チェック。そして、午後に出馬投票が行われ、出馬表が出てから、ハンデが確認されることになる。金曜日には、土日に向けての準備をする。

レースを見る際に使用するデータを作るのだが、実況アナウンサーがするように、馬ごとに勝負服の塗り絵をする。「幼稚園の娘と同じことをやってます(笑)」土日は、開催場に出勤。案内でパドックに向かった。
「可能な限リパドックに出向いて、いつも同じ場所に立って出走馬の状態をチェックします。ファンの皆さんと同じようなことです。気配とか、太さとか、そうでないかなど、後日、記録となった数字を見ただけでは判らないものがレース結果に直結しますから。適正なハンデ作りのためには、レースだけチェックしていたのでは充分ではないので」なるほど、調教チェックも、パドックも、すべてが適正なハンデ作りのために、なくてはならない過程なのだ。

パドックチェックが終わると、すぐにスタンドの上階にある「裁決室」に向かう。この部屋は、裁決スタッフと、ハンデスタッフが供用するスペースで、レースの間は双眼鏡を持って観戦し、次のパドックに行く前に、ノートパソコンやノートに「数字に出ない部分」を書き込んでいくのだ。


レーディングも大切な仕事
ハンデキャップ役の仕事はハンデ作りだけではない。もうひとつの核となるのがレーティング作成だ。以前は「フリーハンデ」という日本固有のものだったが、1997年からは国際レーティングが適用されることになり、その重要さはますます増している。

日本馬が海外のレースに出走を希望する場合、レーティングで選考されるし、また、外国馬が日本のレースに参戦希望すると、参加表明馬のリストで、レーティングの高い順に出走することができるのだ。
ちなみに、日本史上最もレーティングが高かった馬を訊くと、すぐに、「エルコンドルバサーで、134ですね。2004年の全世界のトップが130ですから、いかに優れたものかが判ります。「責任重大ですが、やりがいのある仕事です」



 
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