牧場で仕事をするスタッフに求めらることとは

牧場で仕事をするスタッフに求めらることとは

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「好き」だけではできない
馬の世界で働きたい、それも生産や育成、種馬場などで働きたいという希望を持っている人で、社台の名前を知らない人は恐らくいないだろう。彼らにとって、社台グループヘの就職というのは夢であるのかもしれない。
でも、なんとなく憧れているだけではどうにもならない。また、憧れだけ、馬が好きというだけでは仕事にならない。
ここでは社台グループの採用の流れを記載し、配属先ごとにどんな仕事をするのかを簡単に紹介したい。

繁殖スタッフの仕事
まず、繁殖スタッフがどんな仕事をするのか簡単に紹介しよう。
社台グループには、生産牧場だけでも社台ファーム、ノーザンファーム、追分ファーム、白老ファームと、4つもの牧場がある。
基本的な厩務員としての仕事は当然のことだが、繁殖シーズンであっても、お客様がみえれば、馬を一旦厩舎に入れ、手入れしてからお客様の前に引いていくのもスタッフの仕事だ。

また、お産当番にあたれば、労働は深夜、早朝にまで及ぶ。体力も持久力も要求されるし、さらに馬に対する繊細な感覚、優しさも求められる。
繁殖スタッフの場合、無事に仔馬が生まれると、母親とセットで担当が世話をすることになる。昔と違い、今は「刷り込み」といって、生まれた直後から人間が撫でさすり、仔馬とふれあいながら、声をかけながら育てていく。離乳して心細くなった仔馬が、すぐに人間をたよりにするくらい、効果のある方法だ。

また、おおむね牝馬はおだやかでおとなしい。あれこれ考え合わせると、男性が向いていないわけではないが、より、女性に向いている職種ではないだろうか。

育成スタッフの資質
育成部門があるのは社台ファーム、日高社台ファーム、ノーザンファーム、ノーザンファーム空港、ノーザンファーム遠浅、追分ファームだ。
毎年9月ごろ、離乳された当歳馬たちが育成場にやってくる。牡馬と牝馬とに分けられ、仔馬だけの集団生活が始まる。そして、1歳の秋、ブレーキングが始まる。

人が乗る馬として、もっとも基本的で欠かせない「約束事」を教える大事な作業だ。
馴致を終えれば、調教が始まる。これらが、それぞれの馬の将来的な商品価値を定めるといつても、過言ではあるまい。育成とは、そういう仕事なのだ。

以前、ステイゴールドの取材でノーザンファーム空港のスタッフにお話をうかがう機会があったが、たくさんの印象深いエビソードの中でとりわけ心に残っているのに、こんな言葉がある。
「俺ら、雨の日も雪の日も、1日も欠かさず乗りましたよね」

日々の努力はして当然であり、なおかつ、ほかのどこよりも、誰よりも、「価値の高い」馬を作り上げる。そのためのスタッフは、ただ馬に乗れるだけではいけないというのが想像できるだろう。もちろん、誰もが最初は初心者だし、キャリアを積むことによって知識も技術も向上していく。ただ、そのために求められる資質と熱意のハードルは相当に高いのではないだろうか。ムチー本で食っていくのは、ジョッキーだけではない。

社台スタリオンステーションの徳武英介さんの言葉を引用する。
「育成スタッフには、車にたとえれば、普通の車の運転手と、F1のレーサーとの中間くらいのセンスと能力を要求されると思います。間口はおそろしく狭いし、奥行きはすさまじく深い。
それだけの資質と、自分がどれほどのスペシャリストにならねばならないのかを自覚している新人は、ウチとしても是非欲しい人材です。ひとりでも多く、そんな応募者に来て欲しいですね」

種馬場スタッフに求められるもの
育成スタッフに求められるのも相当厳しい条件だが、種牡馬を扱うスタッフにも、同じくらいの厳しさが要求されるようだ。たしかにシビアな条件がこんなにある。
◆種牡馬自体の値段が天文学的
◆その種牡馬が稼ぎ出す種付け料が天文学的
◆その産駒が稼ぎ出す賞金が予想できない
もちろん、すべての種牡馬が該当するわけではないが、自分が世話している馬がウン千万、ウン億、いや、ウン十億やウン百億の生き物だと思ってしまったら、怖くて世話できないかも。しかも、それだけではない。万が一事故が起きたら……。種牡馬だけでなく、種馬場スタッフもマジで命がけなのだ。

社台スタリオンステーションでは、種付けシフトは1日4回から5回行なわれる(ただし、同一の種牡馬は1日最高4回まで)。
5時、8時、13時、17時、そして21時だ。朝飼はなんと夜中の2時半から3時= 体力も精神力も、そして繊細さも要求される。

でも、こんなハードでシビアな職場でも、新人が入る可能性はゼロではない。女性スタッフだっている。種馬を扱うわけではないが、種付けに来る繁殖牝馬の洗浄や消毒をするのは女性スタッフだ。
「馬への当たりが柔らかくて、持久力があるというのが女性の強みではないでしょうか」と徳武さん。そう、なにがなんでも男だけ、というのではなく、適材適所なのだ。

新卒者採用はグループ一括
新卒者採用は、社台グループ全体で一括して行なわれる。ただし、あくまでも各牧場で欠員が出たら実施されるものであり、定期採用ではない。実施されない年度がある可能性もある。
参考までに、平成14年度の募集要項をご紹介しよう。
■ 対象 平成14年度3月卒業予定者
■ 職種 厩務員
競走馬の生産・育成に関わる一連の作業(馬の手入れ、馬房の掃除、給飼作業、乗馬、その他)
■ 提出書類 履歴書及び調査書
(いずれ家業に就くなどの条件がある場合は明記すること)
■ 採用実績
平成13年3月卒 24名
平成12年3月卒 23名
平成11年3月卒 21名
この募集要項はハローワークに出されるものと、高校の就職担当に出されるものがある。
高校生は、学校の先生や担当者に問い合わせるべし。

「牧場」と言ってもいろいろあります
「牧場」といっても千差万別、その役割も規模も仕事も待遇も、牧場によって全然違う。ここでは実際に馬産のなかで担っている仕事を中心に、牧場の種類を手短に説明しよう。

生産牧場
一般的に「牧場」と言えば、この生産牧場を指す。繁殖牝馬を繋養し、文字通り、競走馬を生産するのがその役割だ。一部の牧場はオーナーブリーダーとして(ダビスタのように)、生産馬を自分の持ち馬やクラブ所属馬として競馬で使うが、大半の牧場はセリや庭先取引で生産馬を売却することで、経営を成り立たせている。

この種の生産牧場に就職した場合、その主な仕事は、繁殖牝馬と1歳の夏以降に育成場に入るまでの仔馬の世話になる。比較的大入しい繁殖牝馬と小柄な仔馬を扱うので、人事故が少ないこともあり、乗馬経験のない人、場合によってはまったく馬に触れたことがない人でも雇ってくれることもある(雑用はヤマほどある)。

生産牧場の90パーセントは北海道の日高地方、胆振地方に集中している。牧場の規模は、繁殖牝馬を数頭持って家族だけで経営している小牧場から、社台グループのような「大企業」まで多種多様。大手の牧場は、後述する育成牧場や種馬場もグループ内に抱えており、当然、配属先によって仕事の内容も変わってくる。

昨今、景気の冷え込みによって極端な経営不振に陥っている生産牧場が多い。雇ってもらったはいいが、住むところと食事を提供されるだけで給料がほとんど出ない、なんて話も時折耳にする。逆に小さな牧場でも、牧場主の経営ビジョンがしっかりしていて、大手牧場に負けない立派な成績を残しているところもある。自分の将来を託すワケだから、就職を希望する牧場については、しっかり調べてから応募しよう。

育成牧場
調教師の管理馬数の増大、育成場の事実上の外厩化の影響で、育成場は慢性的な人手不足に陥っている。近頃、馬に関係する産業のなかで最も求人が多いのが、育成牧場だ。気をつけてもらいたいのは、同じ育成場でも、北海道の育成場と美浦や栗東のトレセン近辺にある育成場ではかなり役割が違うことだ。

北海道の育成場が1歳馬、2歳馬の馴致、調教を主な仕事にしているのに対し、トレセン近辺の育成場は、体養馬や新馬を競馬で使える直前まで仕上げるのが役割。当然、後者の方がジョッキーに近い、高度な騎乗技術を求められる。

稀に「ヘンな乗り癖がついてない方がいい」と未経験者を採用する場合もあるが、基本的に育成場に勤めるには十分な騎乗経験がないと苦しい。騎乗に慣れてない1歳馬や2歳馬を乗り慣らすワケなので、危険な仕事であるからだ。

だが、15―15できっちり回ってこれるような騎乗技術を持っている人はムチ一本で世界中どこでも食べていける職人さんである。実際、日本に人材が足りないので、ニュージーランド人やオーストラリア人、アイルランド人の乗り役を雇っている育成場が多くなっている。

種馬場
種牡馬を管理し、繁殖シーズンには種付けを行う牧場だ。種馬になる競走馬は誰もが知っている名馬ばかり。アイドルホースと寝起きを供にする種馬場での仕事に憧れる人は多いようだが、種付けは不慮の事故が起こる可能性があり、なにしろ高価で貴重な血統馬たちの世話をするワケだから、やはりベテランホースマンの技術と経験が求められる。少なくとも馬に触れたことのない人が採用される例は、ほとんどないと思われる。

牧場スタッフの給料
ハローワーク静内を取材した際、求人情報(牧場)の資料を見せてもらい、2004年末から2005年1月にかけて実際にあった求人一覧から、牧場スタッフの待遇について興味深いデータを得られた。

年齢やキャリア、職種によって高低が左右されるのは当然だが、ある程度の傾向が見えてきた。最も若い求人は16歳以上からあるが、多いのは18歳以上。そして、最も低かった月給は12万円。最も高額な提示額は35万円(もちろん経験者)だった。しかし、おおむね下は13~4万円から、上は20~25万円までという範囲の金額が多く見受けられる。

さて、これを安いと思うかどうかは、実は求職者にかかっている。というのも、生産・育成を問わず、ほとんどの牧場では住込みが条件となっており、一般の賃貸物件に住む場合の家賃と比べると、寮費はかなり安い。場合によっては、寮費と食費が別建てだったり、自炊を選んで光熱費を支払ったりという例もある。

つまり、自由に使える金額は、都会のごく一般的なサラリーマンと比べて、そんなに差がない可能性が高いのだ。実際、パチスロとススキノにハマらなければ(笑)、けっこう貯金できるという話も聞こえてきた。
社台グループの創設者である故吉田善哉氏の言葉をご紹介する。
「馬で稼いだ金は、全部馬に使え」
善哉氏の没後、社台グループはこの言葉を実践しているように思えるが、これは個人レベルでもできることなのだ。もちろん、ハードな仕事であり、精神的にも気を抜けない職種なのだから、息抜きは必要だろう。

でも、限度を決めて上手に遊べば、貯金ができるのだ。キャリアを積み、技術がともなってくれば、昇給も、ヘッドハントの道も開けてくる。目的意識をしっかり持って上手にやり繰りし、さらに自分自身に投資して、貴重な財産を身に付けようではないか!



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