最もポピュラーな消化器病、痢痛
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馬のハライタ(腹痛)は痢痛と呼ばれ、消化器病のなかでも最もよく知られている病気である。ひとくちに痢痛と言っても内容はさまざまで、原因によって次の七種類に大別される。①痙攣病(けいれんせん)
からだの内部の急激な冷却や外部の寒気が原因で、腸が痙攣することによって起きる。発汗後に寒風にさらされたり、暑い時期に運動後、冷たい水を飲んだりすると起こしやすい。
②過食病(かしょくせん)
読んで字のごとく、食べ過ぎが原因で起きる。夜間、馬房から逃げ出した馬が厩舎内の飼料箱から盗み食いをして起こした例がある。
③便秘痢(べんぴせん)
便秘が原因で起こる。競走馬に最も多いハライタ。運動不足により腸の動きが悪くなったときに起こしやすい。
④風気痢(ふうきせん)
湿った青草、クローバーなど、醸酵性のものを食べたときに起こしやすい。齢癖(通称グイッポ。空気を飲み込む癖)のある馬、あるいは、寝ワラを好んで食べる馬なども起こしやすい。
⑤変位癌(へんいせん)
通常は腸捻転と言われている。馬の腸は、小腸が19~30m、大腸が12~15mと長く、しかも腸間膜で背部から吊るされた構造をしているので、腸がよじれやすい。すると、血行障害を起こして変位痢を発症する。ハライタのなかでは最も死亡率が高い。
⑥血塞癌(けっそくせん)
腸間膜動脈に円虫という寄生虫の幼虫が寄生してつくる動脈内の血栓が原因。腸壁への血行が障害されて起こる。
⑦寄生痢(きせいせん)
回虫、円虫、条虫、馬バエ幼虫など寄生虫の濃厚寄生が原因で起こる。 どの原因によるハライタも、手当てが遅れたり予防を怠ると取り返しのつかないことになってしまう、恐ろしい病気である。
レースに備える飼養管理で経験が頼りの勝負かいば
塩分、アルコール、コレステロールの取り過ぎなど、最近の我々の食生活には赤信号がともりがち。
もっとも、好きなだけ食べたいという気持ちは古来不変の欲望とも言えるのだが。さて、馬についてはどうだろう。「牛飲馬食」という表現から考えれば、馬はとてつもない大食漢、少なくとも牛と同レベルのような印象があるが……。
同じ草食動物でも、牛と馬では大きな違いがある。反笏動物である牛には胃が四つあるが、馬には胃袋はひとつしかない。そして、その大きさたるや、牛の胃の総容量が200リットルを軽く超えるのに対し、馬の 胃はわずか10~15リットル程度。ちなみに、人間の胃は成人で1.5~2リットルである。からだの大きさから考えて、牛の胃が大きすぎるのか、馬の胃が小さすぎるのかは議論の分かれるところだ。
どちらにしても、馬は牛のように一度に大量の飼料を胃の中に詰め込めないことは確かだ。したがって、ゆっくり少しずつ、上品に食べるのが馬本来の食べ方と言える。このことは、放牧されている馬が、放牧時間の実に7~8割までを採食に費していることからも明らかだ。それを無視して短時間に大量の飼料を食べたりすると、腹痛(いわゆる痢痛)の原因になる。馬には塩分やコレステロールよりも、まず食べ方(飼料の与え方)そのものに対する注意が重要なようだ。
一流の運動選手は食事のし方にも気をつかうという。試合に照準を合わせ、段階的に、合理的な方法で食事をとっていく。すなわち、体力の増強をめざす訓練期、試合数日前のコンデイション調整期、さらに試合当日や試合後に分けた適切な栄養管理である。
競走馬においても、レースに備えた勝負かいばなる飼養法が、長年の経験からそれぞれ工夫されてきたようだ。しかし今のところ、完全なる飼養法は開発されていない。競走馬にとってどのような方法がベストなのか、また、人間の方法がそのまま馬にも効果を発揮するかなど、馬の飼養管理は、まだまだ経験が頼りの試行錯誤の段階である。
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